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■ 西山愛の『この人に会いたい』


vol.11 朗読・歌い手 中村祐子さん

西山愛の『この人に会いたい』vol.11

中村 祐子(ナカムラ ユウコ) 朗読・歌い手

様々な歌と朗読を一つの物語のようにプログラムし、飽きるのことないステージを作ることを心がけています。

「みんな違ってみんないい」
「こだまでしょうか、いいえ、誰でも」
金子みすゞさんと言えばこの二つの、西山愛です。こんにちは。

知らないなりにも見聞きする金子みすゞさんの詩は、シンプルすぎて「?」となる。けれどその視点にハッとさせられることも。

長くみすゞさんの詩の世界に触れているこの方は、どんな想いで表現されているのだろう? 

コロナ禍での延期を経て、12/6に東京で開催された〈金子みすゞと広い河の岸辺〉コンサート。その報告投稿をFacebookで見かけて、そんなことを聴いてみたくなり、師走も師走に取材を申し込みました。

今回会いに行ってきたのは、詩を歌と朗読で表現されることをライフワークとされている、中村祐子さんです。

(左から2番目が祐子さんです。東京コンサートでの1枚)

祐子さんはダンス好きが高じて演劇の世界へ。入って間もなく、舞台〈金子みすゞ物語〉で主演の座を射止めました。
それをきっかけに、金子みすゞ(以下、敬称略)の詩を歌と朗読でCDをリリース。結婚・出産を機に活動を休止されていましたが、2016年に〈こころの鈴の音プロジェクト〉を発足。金子みすゞを始め、様々な詩の世界を歌と朗読で届ける活動を5年間続けてこられました。 

 

20代から金子みすゞに触れ、今もその詩の世界を表現している。
どんな想いで? という質問には、意外な答えが返ってきました。

「読むことが全てです」

「初めてみすゞさんの詩を見た時に、『なんて当たり前のこと言ってるんだろう』って思ったんですよ。みすゞさんの詩を解説してる方って多くいらっしゃって、どれも素晴らしいんです。でも私はひとつもそれを言えない」

「男性は科学的に見えたりもするみたいですけど、女性は直感的にわかるような。だから解説できないというか。何も考えずにそのままスッと読みます」

 

 

 

ただ読む。そのシンプルさの奥をもっと知りたくなります。
一方、他の方が書かれた詩は、時間をかけて自分の中に落とし込むこともあるそうです。

「自分に落とし込めてないものは表現できないですから」

金子みすゞの詩は‟あたりまえのこと“として祐子さんの中にある。それは詩の性質もありながら、祐子さん自身の体験との距離の近さも関係しているように思いました。

お母様がお仕事の間、畑仕事をする祖父母の傍らで、幼い頃からとにかく自然の中にいたということ。自然に触れ、その恵みをいただくお婆様の手仕事を見ながら育ったこと。
金子みすゞの詩は、土や草、自然と共にある日常の風景から切り取られているものも多いです。

「『自然の中に身を置くことが、一番の芸術的センスを身につけることになる』とおっしゃった方がいて。私は何の英才教育を受けたわけでもないですが、育った環境は大きかったかもしれないですね」

「人は誰でも表現したい。そして、みんな何かしら持って生まれたものがある。人ってそれを使って表現するんだなと思いました。私は何の苦もなくできた本を読むこと、歌うことも好きでしたね」

 


 

祐子さんと話していると、ただようような柔らかさが幻想的に見える時があります。一方、地に足がついた姿もそこにはあって、喜びだけでなく悲しみやせつなさも、‟あたりまえ“に表現する。

「人って悲しみたがる生き物ですよね。せつなさとか、心にぎゅっと触れるような出来事って日常的にあるものではないけど、みすゞさんの詩にはそういうのが多い気がします」

切なさや悲しみの後にひろがるじんわりとした温かさ。その感覚を通して、私達は何かを思い出したいのかもしれない。
舞台初演時に書いたというコメント、そして今も大事にしている『こころの鈴の音』という言葉がとても印象的でした。

“どんな小さなことにも、みすゞさんの心の鈴はきれいな音をたてて鳴っていたのでしょう。私もそんな風に心の鈴の音を鳴らせる人になりたい”


この1年、誰もが〈変化〉を身をもって感じた年だったのではないでしょうか。
そんな今、金子みすゞさんの詩で何かひとつ選ぶなら? と、祐子さんに聞いてみました。パッと答えていただけたのがこちらの詩です。
 

世界中の王様 (金子みすゞ)

世界中の王様
世界中の王様をよせて、
「お天気ですよ。」と云ってあげよう。

王様の御殿はひろいから、
どの王様も知らないだらう。
こんなお空を知らないだらう。

世界中の王様をよせて
そのまた王様になったのよりか、
もっと、ずっと、うれしいだらう。


大事なことは何か? わたしたちは問われている。
「争ってる場合じゃない」
祐子さんの静かで澄んだ声が耳に残りました。

こころの鈴の音プロジェクトとしての開催は、今回のコンサートをもって最後ということでしたが、これからどんな形で祐子さんの表現を目にすることになるのか、とても楽しみです。



 

最後に、祐子さんの歌声をご紹介します。
祐子さんとコンサートを開催されている、ケーナ奏者で作詞家のやぎりんこと八木倫明さん(写真右)。やぎりんさんの書かれた訳詞に共感し、祐子さんのレパートリーに加わった一曲です。

やぎりんさんYouTubeより 〈広い河の岸辺〉
訳詞:八木倫明/曲:スコットランド民謡
https://www.youtube.com/watch?v=k0q6I8H9yWA

動画の最初に語られている祐子さんの言葉がまた、とても素敵です。
ケーナ、アルパ、ギターの優しい音色と合わせて、是非聴かれてみてください。

そんな祐子さんが気になる方へ。
お問い合わせは、九州ウーマンのお問合せフォームよりどうぞ。
https://www.kyushu-woman.net/message_form.php


以上、〈広い河の岸辺〉の動画をみるたびになんだかじーんとしてしまって、何回リピートしたかわからない西山がお届けしました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました(^^)

 

 

profile
中村 祐子さん
朗読・歌い手
金子みすゞの詩を歌い朗読し、世界の名曲の日本語訳詞を歌っています。
様々な歌と朗読を一つの物語のようにプログラムし、飽きるのことないステージを作ることを心がけています。
どの年代の方にも心地よく聴いていただけるステージです。
九州ウーマンPROページ
reporter
西山 愛さん
フリーライター
オモイツヅリ

想いの言語化をお手伝いします
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そういう方へ向けて、文章でバックアップさせていただきます。


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2020年12月